多くの中堅中小企業がIT人材の確保が難しく、DXや業務効率化に注力できない企業が多く存在します。また、転職することが悪くないという時代になってから、優秀な社員がスキルや経験を求めて転職するケースも増加しています。
特に、自社の情報システム部の社員が次々に退職し、「ひとり情シス」になるということも顕在化されています。「ひとり情シス」になると、業務量の負担が増大したり、1人で責任を負うことになったりなど抱える問題が山積みです。
この記事では、ひとり情シスの問題や課題点をはじめ、ひとり情シスになった時の対策について詳しく説明していきます。
幅広い業務を担当する情シス
情シスは情報システム部の略語のことで、企業の中核となる業務システムの管理から自社サーバーやクライアントPCの運用・保守まで幅広く業務に従事している部門です。最近では、ランサムウェアなどのウイルスが蔓延していることから、セキュリティ対策に力を注いでいる情シスも数多く存在しています。
それだけでなく、ユーザーからの問い合わせといったヘルプデスクという役割を担うことも多く、ITに関わる全てのことを情シスが対応するのも現状となっています。
ひとり情シスとは
ひとり情シスとは、名前の通り自社に情報システムの担当者が1人しかいない状況のことを指します。会社の規模によって自社サーバーやクライアントPCの管理の運用や保守を複数人でメンテナンスをする場合もあるが、ひとり情シスの場合は自社サーバーや全社員のPCを管理したり障害対応をしたりなど全部自分でやらなければなりません。
それ以外にも、業務システムのリプレースや法改正でシステムの改修をする場合もひとり情シスが責任者として現場の意見をまとめたり、業務フローを作成したり、やるべきことが山積みになるのです。
約40%が1人情シス
DELL株式会社が2018年に中堅中小企業868社を対象としたIT投資動向調査によると、情シス担当者が1人以下の企業はなんと約40%も占めているのです。10社のうち4社は情シス担当者が1人もしくは0人ということなのです。
情シスが0人の場合も
先ほどのIT投資動向調査では中堅中小企業868社のうち約20%の企業が情シス担当者が0人というデータも出ています。情シスが0人ということは、他の部署が情シスの業務を兼務しながら自社サーバーやクライアントPCを運用しているのです。特にベンチャー企業では、IT人材を獲得するのが難しく、情シス業務を兼務している担当者にとって大きな負担を強いられている状況なのです。
ひとり情シスが増える背景
ひとり情シスが増加する背景として以下の3つが挙げられます。
- 情シス担当者の退職
- 情シスが経営層からの評価が得られにくい
- 優秀な人材を獲得するのが難しい
情シス担当者の退職
コロナ禍からテレワークの普及やオンライン会議を取り入れる企業が増え、社員の働き方が多様化する動きが活発になりました。一方で、中小企業は紙文化が当たり前な企業が多く、テレワークなどの在宅勤務が業務上難しい企業も多く存在します。
また、転職してスキルや実務経験を積みたい方も増え、企業も即戦力を求める人材を獲得したいと思い、どの企業も採用に力を入れています。自社の業務や福利厚生に不満を持つ社員が突然退職願を提出し、転職することも当たり前になってきました。
最悪の結果、自分以外の情シス担当者が連鎖的に退職し、ひとり情シスの状況に陥ってしまうケースも増えてきて問題が顕在化しているのです。
情シスが経営層からの評価が得られにくい
経営層は情シス出身の方が少ないケースがほとんどで、システムを運用する大変さや障害対応やシステムを本稼働する難しさがわかりません。ほとんどの経営層がシステムがトラブルなく稼働するのが当たり前と思っているのです。
わかりやすく言うと、営業は売上に貢献したり、利益を出したりすることで数字として評価されます。情シスは利益を出す部門ではなく、いかにコストを削減してユーザーが困らないように業務が円滑になるのかを重視しています。経営層は情シスを評価するのが難しく、情シスにとって頑張っているのに期待した評価につながらないのが現実なのです。
優秀な人材を獲得するのが難しい
特にIT人材は他の業界に比べて流動化が激しく、転職市場では競争が激化しています。どの企業も優秀な人材を獲得したいですが、優秀な人材が求めるものはその人にとって今の会社より条件がいい環境や実務、給与を求めがちです。
ひとり情シスしかいない企業よりも情報システム部門があり、大きなプロジェクトに参画できたり、福利厚生や給与が安定している企業を求める傾向があります。ひとり情シスにとって優秀な人材を獲得するのが不利に働いているのです。
ひとり情シスが抱える課題、リスク
ひとり情シスが抱える問題は、「対応の遅れに繋がる」「セキュリティ対策まで手が回らない」「ヘルプデスクのような役割もする必要がある」「インプット、スキルアップの時間が取れない」「業務の属人化」「相談相手がいない」が挙げられます。
対応の遅れに繋がる
ひとり情シスの場合はITに関わる業務を全て自分で対応しなければなりません。システムを運用する上でトラブルや障害はつきものです。トラブルや障害を自分ひとりで解決できる問題ならまだしも、他部門からの障害の問い合わせであれば厄介です。ひとりでトラブル対応しなければならないことから対応遅れにも繋がります。
対応が遅れると、本来しなければならない業務に取り組むことができません。ひとり情シスだとトラブルや障害が発生してしまうたびに、時間に追われ、ストレスが溜まっていくという悪循環に陥りがちです。
セキュリティ対策まで手が回らない
最近はランサムウェアや新種のウイルスなどが企業のサーバーやクライアントPCを狙ってきています。情シスは最新のセキュリティ対策を日々アップデートしなければなりませんが、時間とコストをかけなければ、しっかりとした対策ができません。
また、ユーザーが偽サイトやマクロウイルスが入った添付ファイルを誤って開いてしまい、ウイルスに感染するケースもあります。ウイルスに感染してしまうと、機密情報が漏洩したり、データを削除されたり企業にとって大きなダメージを受けてしまいます。
ひとり情シスの場合はユーザーにセキュリティ教育をレクチャーする時間もあてられないので、しっかりとしたセキュリティ対策まで手が回らないのです。
ヘルプデスクのような役割もする必要がある
情シスは自分の業務以外にもユーザーから業務システムの使い方やPCの不具合などのヘルプデスクのような役割をする企業が実態として多く散見されます。
ユーザーのITリテラシーが低ければ、その分ヘルプデスクの時間が取られ、本来の業務に集中することができず、残業時間が増えることはもちろん、休日出勤も余儀なくされるケースもあります。ひとり情シスはヘルプデスクの対応に追われると負荷が増大すると言っても過言ではありません。
インプット、スキルアップの時間が取れない
ひとり情シスはITに関する業務をひとりで業務をしなければならないことから、とにかく時間がありません。トラブルや障害があれば残業や休日出勤によって余暇が奪われかねます。自己啓発やスキルアップの時間を取ることも難しく、ただ時間に追われ、ストレスが溜まっていく一方です。
業務の属人化
ひとりで情シス業務をこなすため、業務の属人化になりがちです。なぜなら、自分でひとりでできるから、手順書など作成しないケースが多いからです。情シスに新しい方が入社したとしても、きちんと業務を教えてもらえないまま実務をする方も多いのです。
相談相手がいない
ひとり情シスなので、業務で困ったことやトラブルが発生したときも相談相手がいません。相談相手がいれば、トラブルが発生したときも対処できることもありますが、自分ひとりで解決しなければならないことから時間が大幅に取られることもあります。
ひとり情シスは孤独なので、ストレスを溜め込みやすいこともあり、精神的にも身体的にも大きな負担を感じる方が増加しているのです。
ひとり情シスの課題を解決する
ひとり情シスの課題を解決するためには、「業務効率化のためにツールを導入する」「業務範囲を明確に定義する」「外部リソースの活用も検討」が挙げられます。
業務効率化のためにツールを導入する
テレワークなどによって急速にITが進んだ昨今、業務効率化できるITツールはインターネットで検索すれば山ほどヒットします。RPAといった業務システムを自動で入力したり、データを更新したりするような画期的なITツールも増えてきており、ひとり情シスにとっては朗報です。
業務の負担を少しでも減らすためにも、積極的に業務効率化できるITツールを導入することをおすすめします。最近では、クラウドのITツールを利用する企業が増加したことによって、スモールスタートでITツールを導入する企業も増えてきました。また、クラウドのITツールを導入することに理解がある企業も多く、この機会にスモールスタートでクラウドITツールを導入することが業務負担を軽減する大きな一歩になります。
チャットボット
チャットボットとは、ユーザーが何か困りごとがあったことに対して、ロボットが代わりに自動応答するシステムのことを指します。
チャットボットを利用することで、ユーザーが困っていることを自動で回答してくれるので、ひとり情シスにとってヘルプデスクをしなくてよいというメリットがあります。事前によくある質問をチャットボットの仕組み化をしておけばよいので、ひとり情シスの企業にぜひ導入してほしいシステムです。
チャットボットとは?AIとの違い・種類・選び方など、総まとめ
FAQ
FAQは頻繁に尋ねられる質問という意味で、チャットボットに入れる仕組みのベースとなるものです。FAQをしっかり構築することによってユーザーからの問い合わせをチャットボットで自動化できる仕組みが完成します。
FAQとは?FAQの活用方法や意味からQ&Aとの違いまで全て解説
RPA
RPAとは、業務システムをロボットが代わりに自動で入力や処理を実装するためのシステムです。多くの企業が今後導入を検討するITツールで、ひとり情シスにとって自分の業務を大幅に工数削減できるものと過言ではないほどの今おすすめのITツールです。
業務範囲を明確に定義する
ITベンダーに自前のサーバー運用や保守などを丸投げしてしまうケースがよくありますが、トラブルや障害が発生したときにITベンダーがすぐに対応してくれない場合もあります。ITベンダーとの業務範囲を明確に定義することが大切です。ITベンダーに丸投げしている場合は契約内容とITベンダーがどこまで切り分けをするのか確認する必要があります。
外部リソースの活用も検討
ITベンダーなどの外部リソースをうまく活用することも大切です。ひとり情シスにとって日々の業務が負担になってなかなか外部リソースを利用するための時間がないかもしれません。ITベンダーなどの外部リソースを活用することで業務の負担が大幅に削減できます。一度、ITコンサルタントに相談することをおすすめします。