現在の日本では、企業のバックオフィスにおいてDX化を進めることが非常に重要な課題となっています。
この記事では、バックオフィスにおけるDXについての解説をはじめ、バックオフィスにDXが必要や理由やDX化の具体的な方法、DX化のポイントなどについて解説していきます。
バックオフィスにおけるDXとは
一般的にバックオフィスとは、顧客と直接のやり取りがない業務のことを意味しています。
①経理・財務→企業の収支管理・融資・株式発行等
②人事・労務→人材の採用・教育・勤怠管理等
③総務→情報セキュリティ管理・設備や備品の管理・株主総会運営等
④法務→社内規定整備・コンプライアンス対応等
上記の業務がバックオフィスの業務に該当します。
そして、DXはデジタルトランスフォーメーションという言葉を略しており、経済産業省は以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
ですが注意しなくてはいけないのが、デジタル化=DXではないということであり、本来の意味では「データ・デジタル技術を使用して、顧客視点での新しい価値を生み出し、競争力を強化するためにビジネスを変革していく」という意味の言葉になります。
上記の2つの意味を含めて考えると、バックオフィスのDXとは「経理・人事などのバックオフィス業務をデジタル技術を用いて変革を行い、企業の競争力を強化していくこと」という意味であるといえるでしょう。
バックオフィス業務の種類
バックオフィスの業務の種類には、経理・財務・人事・労務・総務・法務・社内ITインフラなどがあります。
①経理
企業の血流である「お金の流れ」を管理する仕事です。
伝票処理、入出金管理、決済関連書類の作成、税務申告などの業務があります。
②財務
財務はこれからお金をどう使うのかといった内容の業務を行います。
資金調達、財務戦略の立案、資金管理などの業務があります。
③人事
人材の採用・教育・人事評価などにより、社員の能力を最大限まで発揮させ、企業の最適化を図る仕事を行います。
④労務
バックオフィス業務の中核となる「労働管理」を担い、従業員の労働を円滑にサポートする仕事を行っています。
給料計算、福利厚生に関する業務、従業員の保険手続きなどの業務を行っています。
⑤総務
業務範囲は非常に広いため、「他の部署に属さない多種多様な業務」といえるでしょう。
物品管理、保守管理、社内規定の作成、文書管理、株主総会の運営などが業務内容に該当します。
⑥法務
契約・取引に関わる法務、株主総会・取締役会などの会社運営上における法務、社内規定・社内相談窓口の整備などの業務を行っています。
⑦社内ITインフラ
システムの管理、ルータや複合機の設置、配線やインターネットの接続、セキュリティの構築等の業務を行っています。
DXとは
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)を略した言葉であり、デジタル技術によって社会やビジネス、ライフスタイルなどを変化させることをいいます。
DXは既に私達の身近で導入されており、音楽業界では今までCDの購入かレンタルが主流でしたが、現在はネットで聴くことのできるストリーミングサービスが主流になりました。
音楽業界にDXが導入された背景には、スマートフォンやタブレットなどの普及が大きな要因になっています。
様々な業界に波及しており、ビジネスにおいて大きな変革をもたらしていますが、これがまさしく「DX」です。
DXについてさらに詳しく知りたい方は、以下のURLの記事をご覧ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?IT活用とは違うその定義を解説
経済産業省によるDX
経済産業省は2018年12月に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン) 」を発表し、以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
(引用:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx_guideline.pdf)
バックオフィス業務改善に活きるDX
バックオフィス業務が抱えている課題として、「マンパワー」に対して業務量が多すぎる点、テレワークがままならない点などが挙げられます。
しかし、バックオフィスをDX化することで業務改善に活かすことが可能です。
バックオフィスのDXが必要な理由
バックオフィスにDXが必要な理由として、「少子高齢化による人手不足」「日本の労働生産性の低さ」「リモートワークを中心とした働き方の変化」「2025年の崖問題」などが挙げられます。
以下で詳しく解説していきます。
少子高齢化による人手不足
日本国内の「労働人口」は少子高齢化により減少しています。
総務省統計局の「労働力調査2020年平均結果の要約」によると、2024年以降にさらに労働人口が減少すると予測されています。
つまり、現状以上に少ない人数で業務を回さないといけない未来が来るということになります。
労働人口の減少による生産性の低下などを防ぐためには、「業務の効率化」が急務の課題といえるでしょう。
日本の労働生産性の低さ
日本の「労働生産性」は他の先進国に比べると低い傾向にあります。
同じ業務を処理するために用いる日本人の時間は先進国の人材の約2倍とされており、業務の処理スピードに大きな差があることが分かります。
また、日本は業務ごとの人員の割り当ても多くなりがちです。
DX化を進めることができれば、労働生産性を高めることができ、先進国と対等にビジネスを展開することができるでしょう。
リモートワークを中心とした働き方の変化
新型コロナウイルスが社会問題になっている昨今では、企業の「テレワーク導入」により多様な働き方が求められています。
テレワークを実現するためにも、クラウドサービスを導入することで、オフィス以外の場所から業務に取り組めるようになります。
多様で柔軟な働き方は世間に望まれているものであり、働きやすさに魅力を感じて優秀な人材が集まりやすくなるだけでなく、人材の流出も防ぐことができます。
2025年の崖問題
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」には「2025年の壁」という言葉が登場しており、企業に対してデジタルトランスフォーメーションの必要性を訴えるものになっています。
DXの推進が企業の課題となっている理由として、既存の基幹システムやソフトウェアにおいて時代遅れの「レガシーシステム」を使用している点が挙げられます。
自社内のレガシーシステムをしっかり見直し、2020年以降の新たなビジネススタイルに対応できるデジタルシフトを計画していく必要があります。
2025年の壁によって影響を受ける企業は、大手企業のみならず中小企業や個人事業主にまで及ぶと言われています。
経営者、現場で働く人材、ビジネスの恩恵を受ける消費者にも影響が及ぶため、非常に重要な問題になっています。
2025年の崖とは
2025年の壁について詳しく解説していきます。
「多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション
(=DX)の必要性について理解しているが・・・
・ 既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化
・ 経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、
現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている」
→つまり、この課題を解決できなければ、DXが実現できないだけでなく、2025年以降、1年に最大で12兆円の経済損失が発生する可能性があると言われています。
(引用:20180907_01.pdf (meti.go.jp) )
バックオフィスのDX化の具体的な方法
バックオフィスのDX化を進めるための方法を以下で解説していきます。
ペーパーレス化
まずは、ペーパーレス化を進めていくべきといえるでしょう。
会議のプレゼン資料をはじめ、取引先との契約書や物品発注時の請求書など、日々の業務の中で紙ベースでの情報のやり取りが非常に多いことが分かります。
以前は法律の内容に従い、契約の効力を持たせるために「紙媒体」が必要とされてきました。
そのため、コストや時間が掛かってもアナログでのやり取りが行われてきました。
2021年に「デジタル改革関連法案」が制定され、法律上でもデジタルの手続きが認められるようになったため、ペーパーレスでも契約ができるようになりました。
ペーパーレス化により、遠方の契約がスムーズに行えたり、押印や書類のやり取りを行わなくて良くなるため、出社せずにテレワークにシフトできるなどのメリットがあります。
チャットボットの活用
バックオフィスのDX化を進めるために、チャットボットを導入する方法があります。
チャットボットはロボットと会話を行い、質問者の疑問に対して回答を提示するツールであり、バックオフィスにおいては「社内問い合わせ対応」の効率化に役立ちます。
経理では交通費申請に関する問い合わせ、人事や労務では年末調整書類に関する問い合わせ等、「定期的に同じ内容の質問」が従業員から問い合わせで来る場合にはチャットボットで対応することができます。
チャットボットが社内問い合わせ対応の窓口を担当することで、バックオフィスの従業員の業務負担が軽減され、社内のリモートワークを進めるためにも役に立つといえるでしょう。
チャットボットについてさらに詳しく知りたい方は、以下のURLの記事をご覧ください。
チャットボットとは?AIとの違い・種類・選び方など、総まとめ
RPAの活用
バックオフィス業務に親和性が高い技術に「RPA」があり、パソコン上の「定型業務」をロボットが代行してくれる技術のことをいいます。
定型業務を多くを自動化できれば、「ヒューマンエラーの削減」や「マンパワーの削減」に繋がります。
チャットボットとRPAの違いについては、以下のURLの記事をご覧ください。
チャットボットとRPAの違いとは?併用すると相乗効果がある2つについて
クラウドサービスの活用
バックオフィスのDX化にはクラウドサービスの利用が重要となってきます。
経費精算や勤怠管理等、クラウドサービスによって自動化が可能ですし、ネットワーク環境があればどこからでも利用ができるため、テレワークなどの多様な働き方にも対応が可能です。
バックオフィスのDX化のポイント
バックオフィスのDX化を進めるためのポイントをいくつかご紹介してきます。
既存システムと整合性を取る
DX化を進めるために、システムの導入を検討している企業も多いかもしれませんが、システムには様々な種類があり、既存システムと総合性を取る必要があります。
社内へのシステム導入で失敗したことがあると回答した方が25.7%も居ることから、導入前にはしっかりと検討する必要があります。
失敗の理由に既存システムとの「互換性による失敗」や「総合性が取れていない」などが挙げられることが多い傾向にあります。
企業のフローにマッチしていなかったり、導入したシステムが社内システムと統合ができずに断念してしまうなど失敗が起きないように注意が必要です。
DX推進指標
2018年に経済産業省が発表した「DX推進指標」を活用すると良いでしょう。
DX推進指標は、「DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標」と「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標」の2つから構成されます。
(引用:デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました (METI/経済産業省) )
指標には画像に記載されている項目があり、企業ごとに自己判断を行い、それぞれの項目を「未着手の状態」~「競争で勝ち抜くことのできレベル」までの6段階で評価していきます。
この指標を有効活用すれば、企業の現状・課題に対する認識を共有し、何から取り組みべきかのアクションに繋がる気付きを得ることができます。
長期的な視点で活用を考える
バックオフィス業務が効率化するためには、経営陣の承認から始まり、システムやツールの選定・導入・運用・定着までの長期間を要します。
そのため、計画的な導入をする必要がありますし、長期的な視点で活用を検討するようにしましょう。
自社の課題の明確化
企業によって抱えている課題は異なります。
課題を明確化するために、業務プロセス全体の見直しを行い、形式的な業務があれば省いていくなど対策を講じていきましょう。
また、自社の課題をしっかりと明確化することで、導入すべきツールやシステムが検討しやすくなります。