リテールメディアとは、オンラインのECサイトやアプリ、オフラインのデジタルサイネージやポップ広告等、小売店が展開している広告の媒体のことをいいます。
国内外で3rd Party Cookieの規制や廃止が進んでいく中で、Web広告のターゲティング精度が落ちてきています。
そのため、小売店が保有している1st party dataを活用した広告配信が改めて注目されてきました。
この記事では、リテールメディアの説明をはじめ、リテールメディアの市場規模・リテールメディアとOMO、オムニチャネルの違い・リテールメディアの種類・リテールメディアに取り組むメリット・リテールメディアの実施方法・リテールメディアの事例などについて詳しく説明していきます。
リテールメディアとは
リテールメディアとは、ECサイト・専用アプリのオンライン広告、店舗のサイネージ広告等、小売店が提供する広告媒体のことをいいます。
大きく分けてオンラインとオフラインの2種類の媒体があり、オンラインの媒体はECサイト・専用アプリ・ソーシャルメディアが該当し、オフラインの媒体は店舗内のデジタルサイネージ・ポップ広告などがこれに該当します。
メーカー・ブランド等の広告主が、媒体社として小売店が運営しているメディアに出稿する仕組みになります。
顧客の購買データ・店舗アプリの利用ログ情報等、小売事業者が持っている「1st party data」を活用してターゲティングを行うことができます。
広告主であるメーカーは詳細な顧客データを基に精度の高い広告配信が可能となり、小売店はメーカーと共同販促しながら広告収益を得られる仕組みとして、国内外で注目を集めています。
リテールメディアの市場規模
リテールメディアは海外の小売業界で幅広く浸透しているため、2022年の米国の推定市場規模は約6兆円と見られています。
しかし、日本の市場規模は約135億円とまだ少ない数字となっています。
米国と比べますと、まだ普及しているとは言い難い状況ではありますが、1st party dataを活用する重要性が高まっていたり、リテールDXの推進・購買行動の変化等により、国内でもリテールメディアを活用することの重要性が増しているといえるでしょう。
CARTA HOLDINGSが発表しているリテールメディア広告市場の市場規模推計予測によると、日本の市場においても26年には800億円を超えると予想されています。
(引用:CARTA HOLDINGS、リテールメディア広告市場調査を実施 <br>~リテールメディア広告市場は2022年に135億円、2026年には805億円と予測~ | 株式会社CARTA HOLDINGS )
リテールメディアが注目される背景
リテールメディアが注目される背景には様々な理由が考えられますが、3rd Party Cookieの規制や廃止が進んでWeb広告のターゲティング精度が下がっているため、1st party dataの重要性が増しているという理由が特に大きな要因であると考えられます。
その他にも、未だに実店舗での売上が多いという理由も挙げられます。
それぞれについて以下で詳しく説明していきます。
個人情報の規制で1st party dataの重要性が増している
プライバシー・個人情報保護を目的として3rd Party Cookieを規制する動きが見られます。
CookieはユーザーがWebサイトに訪れた際に、Webブラウザに行動ログ・入力情報を一時保管する仕組みのことをいいます。
今までは広告主がCookieを取得することで、オンライン広告のターゲティングに使用していました。
規制が進んだ現在では、Cookieよりも1st party dataの重要性が高まっています。
3rd Party Cookieの規制・廃止が進んでいるため、Web広告のターゲティング精度が落ちてしまっています。
小売店が取得している1st party dataを広告配信に活用することで、精度の高いパーソナライズを行うことができます。
実店舗での売上が未だ多い
(引用:化粧品購入行動に関する調査結果 – NTTコム リサーチ 調査結果 (nttcoms.com) )
消費財市場では未だに実店舗で購入する顧客が多い点も、リテールメディアが必要とされる理由の1つといえます。
TiktokやSNSを活用して販売を行うことが主流になったと言われていますが、化粧品等の消費財は実際には実店舗での購買が多く、オンライン購買は伸びていないことが分かっています。
2022年にNTTコムオンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が発表した「化粧品購入行動に関する調査結果」を確認しますと、化粧品の購入場所で最も多いのがドラッグストアで83.9%、ECサイトは34.1%に留まっていることが分かります。
3年前の29.6%と比較しても、さほど成長していないことが確認できます。
リテールメディアとOMO、オムニチャネルの違い
オンライン・オフラインを統合させたマーケティング戦略には、リテールメディアの他にもOMO・オムニチャネルなどがあります。
OMOはECサイト・アプリ等のオンラインと実店舗等のオフラインで収集したデータを統合して、顧客体験の向上を図る方法となります。
OMOを活用すれば、顧客の行動や購買データをオンライン・オフラインのどちらでも把握することができます。
オムニチャネルはオンライン広告・ECサイト、SNS・メルマガ・折込チラシ・DM等、複数の顧客接点を統合して購買に繋げる方法です。
これらの3つはオンライン・オフラインを統合するという部分については同じですが、誰視点の戦略で行われているのかという点が異なります。
①リテールメディア:メーカー・小売店・顧客視点
②OMO:顧客視点
③オムニチャネル:事業者視点
OMO、オムニチャネルについてさらに詳しく知りたい方は、以下のURLの記事をご覧ください。
OMOとは?意味やO2O・オムニチャネルとの違い、事例まで | Hummingbird (humming-bird.info)
オムニチャネルとは?マルチチャネルとの違いやメリット、具体的な施策まで | Hummingbird (humming-bird.info)
リテールメディアの種類
リテールメディアの代表的なものとして、オンライン媒体ではECサイト・アプリなどが挙げられます。
オフライン媒体としては、デジタルサイネージ・店頭 POPなどが挙げられます。
それぞれについて以下で詳しく説明していきます。
ECサイト
(引用:Amazon.co.jp : 自転車 ヘルメット )
小売事業者がECサイトを運営している場合、顧客が商品を検索しますと、結果画面にメーカーの関連商品を広告として表示できます。
商品の認知拡大を図ることができ、顧客にとっても新しい商品を発見することに繋がります。
AmazonなどのECモールでも、ユーザーが検索した商品と同じジャンルの商品を広告として表示します。
ECサイトを運営する小売事業者は広告収入を獲得できますので、新たな売上の確保に繋がります。
アプリ
自社アプリを小売業者が保有している場合には、会員登録情報・行動履歴等の1st party dataを取得することが可能です。
1st party dataを活用した広告配信をアプリで行うことで、ターゲットに適切な広告を提供できます。
店内に信号の発信によって利用者の位置が確認できるビーコンを設置しておくことで、来店中の顧客に対してアプリへプッシュ通知ができます。
実店舗における顧客とのタッチポイントを生かしつつ、オンラインで新しいタッチポイントを持つことが可能となります。
デジタルサイネージ
リテールメディアを運用する場合、デジタルサイネージを設置することには大きなメリットがあります。
デジタルサイネージを利用しますと、紙のPOPでは再現できない音・動きで表現しますので、顧客の記憶に残りやすくなります。
時間帯・曜日によっても配信内容を簡単に変更可能です。
平日は会社員向けの内容を配信し、週末は家族向けの内容を配信するなど、売り込みを行いたい顧客の属性に合わせて情報提供を行うことができます。
デジタル広告と連動させますと、SNS・ECサイトで見た広告が店頭でもリマインドさせることができますので、商品を想起するきっかけにも繋がります。
店頭POP
メーカー・リテールが共同で販促計画を考え、エンド棚にデジタル広告と連動したPOPを掲示するのも効果的といえるでしょう。
デジタル広告と店頭のPOPデザインを統一することで、「この商品が一番おすすめされている」というように、商品の訴求効果が高まります。
リテールメディアに取り組むメリット
リテールメディアに取り組みますと、メーカー・ブランドにとっては小売店が保有している1st party dataを利用できるというメリットがあります。
小売店・EC事業者にとっても、広告収入を得られるというメリットがあり、消費者にとっても、自分の興味関心に合った情報を手に入れることができるというメリットがあります。
それぞれについて以下で詳しく説明していきます。
メーカーやブランドのメリット
メーカー・ブランドにとってのメリットとしては、小売店が保有している1st Partyデータを活用することで、効果的な広告配信を行うことができる点です。
小売、EC事業者のメリット
小売・EC事業者にとってのメリットとしては、広告収入を得られる点が挙げられます。
小売店の顧客ID・購入商品と顧客を紐づけるID-POS等を活用すれば、効果的なプロモーションを実施できます。
高度なターゲティングにより顧客のニーズに合った広告・クーポンをタイムリーに配信できれば、購買を促すことに繋がり収益拡大を期待できます。
メーカーの協賛を獲得できますので、新たな収益拡大に繋げることができます。
消費者のメリット
消費者にとってのメリットは自分の興味関心のある情報を取得できる点だといえるでしょう。
オンライン・オフラインの両方の媒体から、最適なタイミングで必要な情報を受け取ることができます。
自分にとって関心の低い広告・配信は削減されますので、顧客体験の価値が向上します。
そのため、より楽しんでショッピングを行うことができます。
リテールメディアの実施方法
リテールメディアを実施していく上で、まずターゲットの検討を行う必要があります。
購買意欲の高いユーザーがどんな属性の顧客であるかを検討し、誰に対して配信を行っていくのかを決めていきましょう。
次にどのメディアで配信を行っていくのかを決めていかないといけません。
自社のターゲット層に見て頂けるメディアを選定する必要があります。
媒体が決まった後は、実際に配信を行ってプロモーションを開始します。
その後、効果測定・改善を行っていくことで、リテールメディアの効果を最大限に発揮することができます。
以下で詳しく説明していきます。
ターゲットの検討
店舗・ECサイトを利用している顧客層を事前に分析しておき、その中から購買の可能性が高いユーザーを検討します。
顧客行動・性別・年齢・住居地等のデータに基づく分析を行うことで、効果的にターゲットを決めることができます。
メディア選定
次のどの媒体を使用して広告を配信するのかを選定します。
どのメディアであれば、自社のターゲット層が多いのかを判断するために、ECサイト・アプリの利用者層、店頭の訪れる消費者のデータ等をリテールから受け取るようにしてください。
それらの情報を基に最適なメディアを決定します。
プロモーションの開始
メディアが決まりましたら、デジタル広告を使用しプロモーションを開始していきます。
リテールの専用アプリ・ECサイトを使用して商品を宣伝していきます。
1st party dataを基に、クーポン配信・セグメント配信を行うことで、来店・購入を促していきます。
効果計測・改善
実際にプロモーションを行っていく中で、しっかりと効果測定を行っていき、改善していく必要があります。
例を挙げますと、デジタル広告を拝見した顧客のうち、「来店に至った人数」「購入に至った人数」等のデータを分析し、どのフェーズに問題があるのか等、仮説を立てていきます。
デジタル広告を見た顧客の購買率が高いですが、来店率が少ない場合には「今の訴求が響いていない」「メディアを選定し直す必要がある」といった可能性が考えられます。
仮説を立ててから対策案を実施していくことで、効果的な改善を行えるでしょう。
リテールメディアの事例
リテールメディアの事例として、リテールメディアを活用して広告収入を40%増加させたWalmart、広告サービス事業における第4四半期の売上を19%増加させたAmazon、購入率を数倍に伸ばしたセブンイレブン、顧客の買い物体験を向上させているヤマダ電機の事例をご紹介していきます。
Walmart
(引用:Walmart | Save Money. Live better. )
WalmartはアメリカでTOP10に入る広告プラットフォームを目指して、リテールメディアの展開を始めました。
自社サイト・独自の配送サービス・アプリでの購入を促すためのスポンサー商品の広告の展開を行っています。
実店舗では5000店舗の17万台のデジタルサイネージを設置し、独自に取得した顧客データを活用して、日時・地域を特定したブランドメッセージを配信。
それらの施策のお陰で、2022年のウォルマートの広告収入は27億ドル、前年比約40%増加の利益を上げることができました。
Amazon
(引用:スポンサープロダクト広告 – 商品の売り上げ促進 | Amazon Ads )
Eモールを展開しているAmazonでもリテールメディアを展開しています。
Amazonの展開するリテールメディアの特徴として、スポンサー商品・関連商品の広告が検索結果に表示される点が挙げられます。
ユーザーの関心が高い商品が広告として表示されますので、広告と気付かれずにクリックして頂ける可能性が高くなります。
2023年2月にAmazonが発表した業績報告によりますと、広告サービス事業における第4四半期の売上は116億ドル、前年比で19%増加という結果を出しています。
セブンイレブン
(引用リテールメディアとは?仕組みや取り組むメリット、活用事例を徹底解説|KAIZEN PLATFORM :)
少子高齢化・原材料高騰などの要因により、売上を伸ばし続けることに課題を感じていたため、セブンイレブンはリテールメディアを取り入れました。
会員数2,000万人を超える自社アプリを利用し、1st party dataに基づいた広告配信を行っています。
アプリ内のトップバナーに広告枠を作り、クーポンを配布することで購買を後押しし、購入率が数倍に伸びました。
今後の展開として、店舗内のデジタルサイネージを活用して広告配信を行っていく予定となっています。
ヤマダ電機
(引用:ヤマダホールディングスとアドインテがDX推進における店舗のメディア化協業に関するお知らせ (yamada-denki.jp) )
ヤマダ電機は国民のテレビ視聴時間が減っていることで、テレビCMの効果が落ちていることを課題に感じていました。
新しい集客方法として、ポイントカード会員と連携させたデジタル広告の運用を開始しました。
店頭ではデジタルサイネージを設置して入店を促進させ、店内に設置したIoT端末を利用してアプリにプッシュ通知を行う仕組みとなります。
商品棚にデジタルサイネージを設置し、そちらでも広告を配信して購入を促します。
顧客が店舗を出た後も、モバイル広告を配信して再来店を促すようにして、顧客の買い物体験を向上させています。